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山本太郎議員も下村文相も、天皇の憲法上の地位を知らないのか。 [憲法問題]

(1) 山本太郎参院議員が、10月31日の園遊会で、天皇に対して原発問題に関する手紙を、直接手渡したことが問題になっている。

 これは、いわゆる「直訴」だと思われるが、一般国民ならともかく、山本氏は参院議員である。政治権力は天皇よりも大きいのである。「天皇陛下にお知らせして、陛下のお力でこの問題を解決してもらおう」、などと思う方がおかしい。自ら、議員として、国会その他で、実現に向けて行動すべき問題である。

 あるいは、天皇にこの問題で山本議員の都合によいような発言なり行動をしてもらい、原発反対運動を進めようと思ったなどというならば、憲法上、許されない天皇の政治利用ということになるし、そもそも、人々の声と力で原子力行政を動かそうとしている原発反対派の風上にもおけない、民主主義の制度を否定する、決して許せない行動だということになる。

(2) 一方、山本議員の行動について下村文科相は、「これを認めれば、いろんな行事で天皇陛下に手紙を渡すことを認めることになる」と指摘したとのことである。

 文相は、明治時代の足尾銅山鉱毒事件を引き合いに出しながら「田中正造が(明治天皇に)直訴して大問題になったことに匹敵するようなこと。こういうことを安易に看過するようなことがあってはならない。非常に重いことだ」と述べたとのことである。

 しかし、まさに明治憲法下では天皇は不可侵の神的国家元首であり、民の声を汲み上げるシステムは憲法・法律で定まっているのに、そのプロセスを無視して直接天皇に要請に及ぶなどというのは不敬、不敬罪そのもので、許されない行動だったということだろう。

 いわば、絶対的権力を持っているがゆえに、田中正造の行為は許されないものだったのである。

(3) しかし、現在の憲法下の天皇は明治憲法下とは全く異なる。議員が直接、天皇に要望書を渡しても不敬などというものでもない。政治権力を一切、持たない、政治的には完全に中立でなければならない天皇を、自らの政治運動に寄与すべく利用しようとしたことが不当なのである。

 あるいは、現在の政府や宮内庁の管理のもと、あのような山本議員の行動で天皇の行動が歪められるわけがない、という信頼は国民からも得られていると思われる。

(4) 問題なのは山本議員の考え方であり、天皇や皇室に悪影響が及ぶ、というものでは決してないはずである。

 山本議員も下村文相も、現在の天皇の憲法上の地位を正確に理解してほしい。天皇は一切の政治権力を持たないし、政治に特定の影響を与えてはいけないのである。「天皇は神聖ゆえに直訴してはならない、侵してはならない、不敬だ」、などというものでは決してない。天皇は、民主的コントロールが及ばない憲法上の存在なのであるから、天皇に政治力を発揮させようなどという、民主主義を無視した行動を取ってはならないのである。