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裁判員裁判での「求刑の1.5倍判決」が最高裁で破棄、そもそも職業裁判官がいるのにどうしてそんな地裁判決が出るのだ。 [刑事裁判問題]

(1) 大阪府寝屋川市で平成22年に、1才の三女を虐待して死亡させたとして傷害致死罪に問われた夫婦に、大阪地裁、大阪高裁はいずれも懲役10年の求刑に対して懲役15年の判決を下していた。

 これに対して最高裁は平成26年7月24日、これを重すぎるとして破棄し、夫に懲役10年、妻に懲役8年の判決を言い渡したことが話題になっているが、1審も2審も、職業裁判官がいるのに、どうして、懲役15年などという判決が下されるに至ったのか、理解できない。過去の判例と比較すれば、職業裁判官が求刑10年に、懲役15年などという意見を出すような事件ではないからである。

(2) 裁判員法67条では、裁判所法77条の規定にかかわらず、過半数では量刑は決められず、重い方から賛成者の数を足していき、裁判員、裁判官双方が入った過半数に達した、一番軽い方の量刑の判決に決定することが規定されている。

 よって、たとえば、裁判員が全員、懲役15年の意見を出しても、それでは判決は決まらず、それに裁判官の最も重い意見の者が加わって初めて判決が決定できる。つまり、裁判官の3人の意見が、6年、7年、9年だった場合、9年に決まる。

(3) 職業裁判官は、裁判員が一致して重い15年の意見を出しているから、ということで、自らの意見も15年に変えた、ということなのだろうか。

 しかし、それはおかしいだろう。それならば裁判員法67条で、「裁判官を含む多数決で決める」とした意味がなくなる。裁判員の意見は、裁判に一定の影響は与えるけれども、裁判員だけでは量刑や裁判の結果は決められない、というのが裁判員法の趣旨だと考えられるからである(但し、無罪の場合は、裁判員法67条で、裁判官だけでは有罪の評議ができないから、「有罪の評議できず」、という形で、裁判員5人の賛成で、無罪を決めることができる)。

(4) まさに、前記の例でいえば、裁判官の3人は6年、7年、9年という意見を出した場合、裁判員の意見が無ければこれまでは真ん中の7年という判決が下されていたところ、裁判員裁判のおかげで、裁判官の中では少数説の「9年」が、多数説となって判決となる、というのが裁判員法の予定する、民意の反映ということだと思われるものである(もちろん、6年という、軽い方の少数説が判決となる場合もある)。

(5) 裁判員の当たり外れにより、大きく判決がぶれるようでは困る。法の安定を害し、被告人としても、運が悪かった、ということでは反省もできない。真にそれが民意だというには法改正が必要である。たった6人、意見が一致したからといって、その意見で裁判がそのままとおる、というのではいけないのである。そういうことはないから安心して、国会は裁判員裁判制度を導入したのである。

 裁判員の意見に引きずられての、求刑の1.5倍などという判決は、今回の最高裁判決を契機に、今後はまず出ないに違いないと考える。